15. イスラムの陶磁
広域にわたるイスラム陶器の制作
イスラム圏での陶器生産は、歴代の王朝が盛衰するに応じて窯場が変わります。そのため、東はアフガニスタンから西はトルコ、エジプト、イベリア半島まで、西アジアを中心として広い範囲でやきものが焼かれていました。
中国陶磁の影響を受けつつ、自由でのびのびとした造形、そしてイスラム圏のやきものの特徴でもある華麗な装飾の陶器は、9世紀以降に花開き、歴代王朝の中で多彩でイスラム独特の陶器を創案しました。
中でも「ラスター彩」や「多彩釉(ゆう)陶器」のミナイ手(色絵人物図杯)はその代表とも言えます。
イスラム陶器の展開
9~11世紀、イスラムの陶器生産はアッバース朝(750~1258年)のイラクで急激に進歩しました。白釉陶器、白釉上に藍(あい)・緑釉(りょくゆう)で文様を描いた白釉藍緑彩(らんりょくさい)陶器や、三彩手(さんさいで)の多彩釉刻線文陶器の盤・鉢類、そしてラスター彩陶器などが開発されます。
ラスター彩は白釉陶に硝酸銀(しょうさんぎん)や硫化銅(りゅうかどう)の顔料(がんりょう)で絵付けをほどこし、低火度の還元炎焼成(かんげんえんしょうせい ※1)で金属的な輝きを放ちます。
金属器を再現した陶器であり、この技法はファーティマ朝(910~1171年)のエジプト、そしてセルジューク朝(1037~1157年)のイランに受け継がれ、発展していきました。
12~14世紀、セルジューク朝では「影絵手」と呼ぶ青釉掻落(かきおと)し文陶器や、ミナイ手(エナメル・彩飾)という多彩な上絵付で装飾した陶器が焼かれていました。
イル・ハーン朝(1258~1353年)の特徴は、青や藍色の地に白・赤・黒で上絵付して、金箔を加える「藍地金彩色絵(らんじきんさいいろえ)」と、泥を塗った灰色の器面に文様を白土で浮き彫り状に盛り上げ、黒や黒褐色で縁取りした「藍釉白盛上(らんゆうしろもりあげ)」陶器です。
藍地金彩色絵はミナイ陶器が発展したタイプで幾何文や唐草(からくさ)文が主に描かれ、藍釉白盛上は半球形の鉢が多数発見されています。他にも、中国風の趣があるの吉祥(きっしょう)文などが施された建築装飾用タイルも焼かれました。
15~18世紀のサファヴィー朝(1501~1736年)時代は「クバチ」と呼ばれる華やかな彩画陶器が考え出され、オスマン朝(1299~1922)のイズニクでは中国青花(せいか)の技法が取り入れられた白地藍彩陶器が主流となりました。
※1)還元炎焼成(かんげんえんしょうせい)
窯内から酸素を奪い、粘土や釉薬の鉱物に反応させて焼きあげること。
藍地金彩色絵鳳凰文タイル(イラン)
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